型紙の製作

印金製作においては、型紙を作る工程が最も難しく、熟練の技が求められる。素人によって製作された印金は模様の形や出来が荒く、すぐに見抜かれてしまう。

材料

型紙 : 型紙の製作において、日本では伝統的に柿渋紙を用いる。柿渋紙は、楮紙を幾重にも重ね、柿渋で貼りつけて数年乾かすことで作られる。こうした紙は、丈夫で耐水性があり、濡らしても寸法があまり変わらない。柿渋紙は、薄手のものから厚手のものまで、様々な厚さで作られる。

今日では「洋紙」という化繊紙も販売されている。洋紙は柿渋紙よりも値段が安く、濡らしても寸法が変わらないうえに、柿渋紙と同じ厚みのものが手に入る。

紙が薄ければ薄いほど、型を彫りやすい。

左に、柿渋紙。右に、洋紙。

 

刃物 : 型紙を彫るための道具選びは、印金製作において非常に重要な要素である。職人は、一重刃や、平行線を彫る為の二重刃、水玉模様を打ち抜くための特殊な刃物など、多様な刃物を使い分ける。一般的に販売されている伊勢型紙用の刃物は、刃先角度が30度の鋼の刃で、切れ味を保つため砥石で頻繁に研ぐ必要がある。

刃物、砥石。

紗 : 型紙用の紗は染料屋で販売されている。彫った型紙の上に、溶剤で薄める「ラッカー」と呼ばれる疎水性の樹脂で、紗を貼り付ける。印金製作において、私が使用している糊は接着力が高く、型紙を布から剥がした後も崩れない。そのため、紗の糸が交わる箇所は紗が糊に移る傾向がある。それを防ぐために、紗の糸より細い、絵絹から抜く糸を、一本ずつ型紙に付ける。フランスにおいては、絹のモスリンの糸が適している。

 

模様を描く・写す作業

模様は、切りやすいよう薄くて白い紙に描く。古い模様を復元する場合、トレーシングペーパーで写すと、模様が少しづつ変形してしまうので、自分で手で描いたほうがいい。

それから、描いた紙の全面を型紙用の紙に糊で貼り付ける。これから、その二枚を同時に彫る。

 

白い紙に模様を描く。描いた紙の全面を型紙用の紙に貼り付ける。

 

彫る作業

模様を彫るのは最も繊細な作業であり、伊勢型紙の専門職人に頼む方が望ましい。刃物の刃が繊細である為、カッティングマットや発泡スチロールの板のような柔らかい台で作業したほうが良い。また、作業中、刃物を頻繁に研ぐ必要がある。

私は、比較的模様が大きく破れにくい部分を残して、まず最も小さくて繊細な模様から作業を始める。刃物を軽く持ち、一気に彫り進めた方が上手くいく。

型紙を彫った後、模様を描いた紙を剥がす。

 

左に、模様をトレーシングペーパーで紙に写した。見づらいので、彫る作業が難しい場合がある。右に、模様を描いた紙を洋紙に貼り付け、二枚を同時に彫ってから、白い紙を剥がす。彫る作業を楽にするために、模様には薄い紙を用いたほうが良い。

 

紗張り

糸を、印刷時に糊付けをする型紙の面、つまり模様の表面に貼る。

紗を貼る場合は、紗を溶剤で薄めた30~50%のラッカーの溶液で付け、引っ張りながら、新聞紙に置いた型紙に当てる。しっかり押してから、型紙を上げ、糸が交わる箇所に樹脂が固まらないように、吹く。

細い絹糸を用いる場合は、糸を抜いてから、セロハンテープに5ミリ間隔で貼りつけ、テープを型紙の一辺に貼る。また、同様に向かい合うもう一辺にも、糸を引っ張って、先をセロハンテープで貼りつける。上述の通りラッカーで紙の全面に貼り付ける。そして 樹脂が乾いた後、垂直方向に作業を繰り返す。

型紙を曲げることにより、糸がしっかり接着していることを確認する。糸が剥がれる場合は、糊付け後24時間の内に、アイロンで接着を完成させる。それでもうまく着かない場合は、もう一度ラッカーで糊付けし、重りをのせて乾燥させる。必要に応じて、作業を繰り返す。

 

糸を貼り付け、樹脂を塗る。

 

糸を付けなかった型紙で印刷された模様の例。糊は型紙の下に入り込んだ。

 

印付け

型紙の端を直角に切る。型紙の端の模様が終わる箇所に鉛筆で印をつけておく。この印は、型紙を印刷する布に置く時に使う。

 

出来上がった型紙、全体と部分写真。

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