印金の生地

印金の種類や印刷技法と同様に、生地の編み方の種類も多様である。日本に保存されている古印金の大半は捩り織や、綾及び、緞子の布地で特徴づけられている。平織、無地の綾、珍しい例では、繻子を時折見受ける。しかしながら、この事例は、様式においても技術においても、時代の下がった作品のように見える。というわけで、初期の中国製の印金は主に捩り織、あるいは綾で製作されたと考える。また日本では、同じ生地が手に入らなかった、もしくは時代が経ち、その生地の生産自体が途絶えたためか、生地の組織が多様化してきたと思われる。

この項目は、日本で保存されている印金で見受ける主要な組織を紹介する。「印金の技法」の項目では、印金の種類やそれぞれの生地の種類を関連付けることにより、これらの製作時代と使用法を理解しようとする。

 

捩り織

捩り織の基本は、捩り経と呼ばれる経糸を、その一方隣の経糸にからませて、緯糸を通してから、元の位置に戻す技法である。このような方法では、緯糸が網にからんでいるから、組織の直交性が安定し、透明感の強い織物が織られる。

 

二本捩り紗。三本捩り紗。七本絽。

 

中国や日本で、捩り織り系の種類ががいくつかあり、多少複雑であるが、基本は同じである。日本で織られている捩り織の三種類は、「紗」、「絽」、「羅」である。紗は、以上に解説した組織である。絽は、紗と同様に、からみ目を作り、このからみ目の間に平織を織ったものである。このからみ目の間に打ち込む、よこ糸の本数などにより、絽の種類がいくつかある。

羅は、もっと複雑な組織でり、後で具体的に紹介したいと思う。

印金と言えば、羅のことを思わざるを得ない。羅地印金は古印金の大半を占め、茶の湯と表具の分野では、一番珍重されている。中国では、羅は古代から織られ、最古の羅の遺物が殷朝時代(紀元前1500年~1050年)にも遡る。中国から伝来し、日本では、927年に出版された延喜式に言及されていることから、平安時代には、もう織られていたことが明らかである。または、アンデス山脈でも羅の古代遺物が発見されている。古文献では、印金の羅地が籠地と呼ばれていることが多い。

組織の基本は、紗と同じだが、捩り経は、一本隣の経糸だけでなく、二本、三本隣の経糸にも次々にからんでいく。このようにすると、地模様に斜めの線が現れる。この技法が可能になるのは、「ふるえ」という仕組みのおかげである。ふるえは、捩り経につける紐であり。緯糸を通す前に、ふるえを引くことにより、捩り経糸を横にずらし、隣合う経糸によじる。この技法では、羅の一種類の組織ができ、「網捩れ」と名付ける。もう一種類の組織では、この捩れを緯糸を一越おきにはずす。このようにすると、籠目のような組織ができ、「籠捩れ」と名付ける。

 

網捩れ羅。籠捩れ羅。羅。

 

羅を織ることは、大変手間がかかかるため、超高級な織物で、その起源から皇帝や神社の装束に主に使われた。日本では、羅を織っている工房がまだ何件か残って、その製品の中には、目の粗い夏帯向けの生地が多い。しかし、古印金に見られる中世の羅に比較ができないほど、古い羅は織り目が詰まっていて、透明感が少ない。

 

顕文紗

顕文紗に印刷された印金の遺物を時折見受けるが、割と珍しい。顕文紗は複合な織り方であり、地組織は捩り織組で織られ、模様は平織組織、もしくは綾織組織で織られている。捩り織は二種類を見受ける。一つは2本捩りといい、捩る糸を2本合わせる組織である。または、3本捩りという組織では、捩る糸を2本合わせ、それらに、もう1本をよじらせずに寄せる。このような工夫では、織物の密度を高める。

 

顕文紗。顕文紗に印刷されている印金。個人層。©V. Blaise

 

紋綾は、古印金に見受けるもう一種類の組織であり、通常に「綾」と呼ばれている。組織は綾織で、経糸面と緯糸面を交代に表すことにより、単色の模様を製作する。というわけで、綾に印刷された印金では、金の模様と織の模様が重なる。

 

雲紋綾。黄色地宝珠に龍紋印金、綾地。MIHO  MUSEUM蔵。© MIHO MUSEUM。

 

平織

平織は一番簡単な組織である。職人は地経を一つと地緯を一つ、1:1のパターンで織り込む。紬(つむぎ)は、表装によく使われている生地で、斑のある絹糸を使った平織である。紬は、地合が不均質であり、光沢が少ないという特徴がある。

繻子

繻子地印金は珍しいが、時折見受けられる。繻子織は、経・緯どちらかの糸の浮きが非常に長く、経糸または緯糸のみが表に表れているように見える。このように織られた生地は、光沢がある。

 

繊維

筆者が観察できた印金は全て、地が絹である。

 

現在残っている印金や、資料に記載されている印金においても、色は様々であるが、頻繁に見受ける色は限られている。表装と茶の湯において、裂の色が中世の皇帝の文化に生じた色の階級制度に関連している。その制度により、紫は最高位で、次は朱色、萌葱、青という順番で評価されている。

それに従い、印金にも、濃い紫地印金は一番重視され、その結果として一番多いのである。第二位は、萌葱色の作品が多い。次に薄茶、白、青(水色)、紅など印金がよく見受けられ、最後に茶色い印金が時折見受ける。一番古く見える印金には、紫や紅、藍色などが多い。

 

紫地唐草紋印金、羅地。MIHO  MUSEUM蔵。© MIHO MUSEUM。

 

表装裂にせよ名物裂帳にせよ、印金は和紙に裏打ちされている。紙は、白いままのもの、もしくは染めてあるのもあり、それらの色は、透けた捩り織地印金の見た目には、大きい影響を与える。古印金は、地味な色とさびのようなイメージが強いが、時代の経過、あるいはこげ茶色でがよく染めてある裏打ち紙は、観覧者の感覚におそらく影響してくる。この印金の本来の見た目とは、大いに異なると思う。

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